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ニセヒロハノコギリシダ
Diplazium dilatatum Blume var. heterolepis Seriz.

屋久島のものをタイプとして1973年に記載された大型のシダである。私の解釈では、どの図鑑にも真のニセヒロハノコギリシダは掲載されておらず、とにかくヒントが少ない。色々な形態のものがニセヒロハ扱いされていて混乱があるが、本種のタイプ標本は、国立科学博物館のタイプ標本データベースで見ることができ、学名で検索すると上位にヒットする。ただし、私が現地を歩き回って得た感覚では、平均よりも切れ込みが深い標本だと思う(近縁種から類推すると、夏葉と秋葉で切れ込み方の傾向が異なるのかもしれない)。

ヒロハノコギリシダ(以下、ヒロハ)に酷似しているが、以下の3点で見分けられると思う。慣れれば一目で分かる。

  1. 葉柄全体の鱗片が幅広く、辺縁の黒い縁取りが目立たない(無いわけではない)。縁取りは断続的で、ヒロハのものよりも概して線が弱いため、透過光で見ないと分かりにくい。

  2. 小羽片の形が異なる。全体的に丸みを感じさせるヒロハに比べて、ニセヒロハは色々な部分が直線的で鋭利な印象がある。小さな小羽片では、基部が出っ張り、全体に鋭い鋸歯がある。ヒロハでは切れ込まないサイズの小羽片でも、ニセヒロハでは浅く切れ込む。ただし、小羽片が大きくなっていっても、あまり切れ込みが深くなっていかない。

  3. ヒロハに比べて全体的に小ぶり。小羽片は一回り小さく、葉身長はヒロハほどは大きくならない(とは言っても1.2mにはなる)。

ヒロハ・ニセヒロハともに変異の幅がそれなりに大きいので、とくに2の小羽片に関しては上記に該当しない場合があるが、大枠の理解としては問題無いと思う。

写真は撮り損ねたが、観察した限りでは、根茎は横に短く這って巨大な塊状になっていた。ヒロハのように直立するかどうかは確認できていない。


私が歩いた屋久島東部の低地の林床〜林縁では、ヒロハほど多くはないが少なくもない。認識し始めると、道路沿いも含めて点々と見つかる。屋久島では、ヒロハは主に低地に生えるようだが、ニセヒロハは寒さに強いのか標高600m程度まで記録がある(そういう標本がある)。

和歌山県の那智山で見つけられたナチワラビは本種の異名である(同じで良いと思う)。南紀では古くから点々と標本が採取されている。それ以外では、高知・鹿児島・沖縄の標本が採られているほか、おそらく誰も認識していないであろう西伊豆の標本も見ている。いずれにしても、ニセヒロハとして認識されずに採取されていることが多い。屋久島以外では、どこでもかなり珍しいと思う。

アンカー 1
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中型の葉。鋸歯が目立つ。左のヒロハノコギリシダよりも、概して小羽片が小さい 屋久島 2023.5.5

葉身上部のアップ。ヒロハノコギリシダに比べてスカスカした印象がある 屋久島 2023.5.5

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葉身中部の小羽片。両側が平行気味・ストレート気味で鋸歯が鋭い 屋久島 2023.5.5

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葉身上部の羽片基部。ソーラスは中肋寄りにつく 屋久島 2023.5.5

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やや下がったあたりの羽片基部。鋸歯が強い。小羽片の基部が出っ張る 屋久島 2023.5.5

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葉身下部の小羽片。このくらい大きくなると浅く切れ込む。基部が出っ張る。ヒロハノコギリシダのように裂片が顕著に丸くはならない 屋久島 2023.5.5

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葉柄の基部。幅の広い褐色の鱗片が多数ある 屋久島 2023.5.5

葉柄基部から少し上がったあたり。このあたりの鱗片もヒロハのものより幅広い 屋久島 2023.5.5

透過光で見ると、鱗片に黒い縁取りが断続的にあるのが分かる 屋久島 2023.5.5

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大型の葉 屋久島 2023.5.5

大型の葉 屋久島 2023.5.5

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中型の葉。雨に濡れている 屋久島 2023.5.5

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やや小型の葉 屋久島 2023.5.5

特大の葉。かなり縦長になる

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