Fernscape of Japan
羊歯のある風景
ノキシノブ Lepisorus thunbergianus (Kaulf.) Ching
ノキシノブは比較的乾燥した樹幹や石垣などに着生する単葉のシダである。葉が肉厚でしっかりしているためか、シャキッと直線的に葉を伸ばしている印象がある。
従来ノキシノブとされていたものは、近年の研究によってノキシノブ(2倍体)・クロノキシノブ(4倍体)・フジノキシノブ(4倍体)に細分された。3倍体の報告もあるが、本種とクロノキシノブまたはフジノキシノブとの雑種だろう。日本では関東〜琉球、伊豆諸島の主として低地・沿海地に自生するらしく、従来のイメージよりも分布がやや限定的である。ただし、分布域では街路樹などにもよく着生しているし、個体数は少なくない。
よく似たクロノキシノブは、本種よりも葉を出す間隔が広く、葉面が平坦で黒っぽいことが多く、ふつうは葉柄が黒く色付くことがよい目印になる。ただし、クロノキシノブでも葉柄が緑色の個体があるうえに、ノキシノブでも葉柄が黒い個体があるようなので注意が必要である。上記の特徴を総合的に捉えつつ、ページ下方で示すように、葉裏の鱗片を観察・比較するのが無難である。
フジノキシノブはクロノキシノブ以上に本種と見分けにくいが、概して葉が薄くて柔らかいこと、ノキシノブより細い根茎がごく短く這い・密に葉を出すこと、しばしば扇状の草姿になること、葉裏の鱗片に荒い鋸歯が目立つこと等が識別点となる。ただし、乾燥気味の環境ではフジノキシノブでも葉が分厚くなるし、渓流沿いではノキシノブも薄っぺらくなることがあるため、細心の注意が必要である。やはり現地でアタリをつけてから、採取した標本の葉裏の鱗片を観察するのがいい。各種の種間雑種もある。
大型の個体。この個体は葉の幅が広めである 千葉県館山市 2019.05.25
越冬葉は濃緑色で光沢がある(右)。新葉は濁りの無いライムグリーン 千葉県館山市 2019.05.25
中型の個体。このくらいの斜度では、上向きに立ち上がる傾向がある 千葉県船橋市 2020.10.29
オーバーハング気味の場所では、下向きに垂れ下がることが多い 千葉県船橋市 2020.09.09
根茎は短く這う。フジより葉の間隔が広く、クロよりは狭い 千葉県船橋市 2020.09.09
ノキシノブ(葉身15cm前後)の葉裏の鱗片。順に、ソーラス近く・葉身中部(×3)・葉身下部のもの。全縁〜細鋸歯縁で、先端はあまり尾状にならない
ノキシノブ(葉身20cm前後)の葉裏の鱗片。順に、ソーラス近く・葉身やや上部・葉身中部(×2)・葉身下部のもの。鱗片によってはやや荒い鋸歯が見られる
フジノキシノブ(葉身8cm前後)の葉裏の鱗片。順に、ソーラス近く・葉身中部(×3)・葉身下部のもの。鋸歯が目立つ。先端は尾状の傾向がある。ジグザグした印象がある
クロノキシノブ(葉身13cm前後)の葉裏の鱗片。順に、葉身上部(×2)・葉身中部(×2)・葉身下部のもの。やや荒い鋸歯が見られる。小さい鱗片では先端が尾状になる